7月のテーマ(第2期)

作中に「放」という文字を入れる

 

募集期間

2022年7月1日〜31日

 

応募総数

340編

 

選考

ほしおさなえ

星々運営スタッフ

 


 

選評

ほしおさなえ

 

七月の文字は「放」。放置、放送、放物線、放射線など、さまざまな言葉が浮かびます。漢字というのは、熟語になると少しずつその色合いが変わるのが不思議です。その文字の持っているさまざまな面が見えてきて、そのすべてがその文字の姿になるのです。今月はさまざまな「放」の姿が見えましたが、身体と心の関係に迫る作品も多く、「放」の意味についてあらためて考えさせられました。

 

1席のへいたさんが描いたのは「放牧」。はじめて読んだときにたちまち心をつかまれました。大きな牛を見て、その大きさに驚く。そして自分が昨日牛を食べたことを思い出す。そこまでならだれしも思うところでしょう。この作品の凄さは、牛に一礼して通り過ぎるところにあります。なにかの命をいただいて生きることへの畏怖を感じながらも歩みを止めない。それこそが生きるということであり、短く平易な文章にその真理が封じ込められていることに驚きを感じました。2席の永津わかさんの作品は、宇宙に送り出された船の物語です。子どものころは宇宙旅行に憧れを感じましたが、いまは限りなく広い宇宙に恐れを感じます。それだけに、ひとり宇宙を行く船に「忘れないよ」と伝えたくなります。3席のkikkoさんの作品に登場するのは「放電」。悲しみを放電する機械から生まれた子猫の物語。最後、本物の子猫と出会ったときに胸に走る電流が印象的で、心と身体の関係の不思議が浮きあがってきます。

 

佳作。スイさんの作品では、独り歩きする影を通して心と身体の関係の不思議を描かれます。身体のなかには自分も知らない自分がいるのかもしれません。音さんの作品に登場するのは「放物線」。放物線が過去と現在をつなぎ、はじめてあのころの自分を理解する。その瞬間が鮮やかです。すみれさんが描いたのは「ラジオ放送」。ひとりきりの時間、機械から流れる声に耳を澄ます。身体を離れ、電波にのってきた声のやさしさが胸に沁みます。ちるさんが描くのは「野に放たれたピアノ」。弾かれなくなっても音を奏でたいピアノの姿が言葉をうちに秘めた人の心とダブり、ピアノたちが自由に奏でる音を聞いてみたくなります。草野理恵子さんの作品。鹿の死によって部屋が別のものに変わり、現実もまた、わたしたちの目に映る表層に過ぎないのかもしれないと思わせる。世界を異化する言葉が見事です。旦悠輔さんの作品には、身体に宿る意志が、身体が弱ってもなお息づくさまが描かれています。心とは、身体が滅ぶまで叫び続けるものなのかもしれません。のび。さんの作品では矢を放つ人の姿が描かれています。抱いていた思いをすべて捨て去り、世界と一体化する。一瞬の真理に迫る素晴らしい作品でした。

 


 

入選

 

一席 

 

へいた

@heita4th

 

 

熊本を訪れたとき山道に大きな牛がいた。赤牛だ。パンフレットで見た。放牧されている。私を見ても微動だにしない。近寄ると量感でずしりとくる。私の上半身程もある頭でこっちを見る。昨夜旅館で食べた肉を思い出す。こんなに大きい生き物を私は食べたんだ。牛は草を食んでいる。一礼して通り過ぎる。

 

二席

 

永津わか

@nagatsu21_26

 

こんにちは。ぐるぐるり。さようなら。ぽーん。周囲を巡ってほんの短く留まって、もう長い時間飛び続けている。金色の円盤を携えて、青い星から送り出されたのは遠い昔。繰り返し、繰り返し、いつか誰もが忘れてしまっても。放ったこの声を受け取ってくれる貴方がいることを、僕はずっと、待っている。

 

三席

 

kikko

@38kikko6

 

悲しみを放電できるふしぎな機械を買った。早速使ってみると、放電された電気が集まり子猫の形をとった。嬉しくて、撫でたり添い寝したりした。だがある日、子猫は忽然と消えてしまった。製造元の電話は繋がらず、訪ねた社屋は廃墟。親とはぐれた子猫が一匹いて、そっと抱き上げると胸に電流が走った。 

 


 

佳作

 

スイ

@tsuduru_0716

 

数年前、ひどい交通事故に遭った。一命は取り留めたものの、どうしてか夜の間だけ影が独り歩きをするようになった。昼の公園で、猫嫌いのわたしに見覚えのない猫がじゃれついて来たりすることがある。影のすることはよくわからない、とは呆れるけれど、実害はなさそうなので放っておくことにしている。

 

@Z9hmdBIPGCSspEx

 

青空の一番深い場所を目がけて、黄色い夏を投げ上げる。入道雲を突き抜け、放物線を描いて戻ってきた夏を、ラケットで力いっぱいコートに打ち込む。砂埃が立つ。私はその瞬間のために生きていた。煌めきを放つ速度には到底追いつけないことを、知ることも出来ずにいたあの頃の私の輪郭をなぞっている。

 

すみれ

@sumire_sosaku

 

日付を超えた真夜中、どうしても眠れなくて枕元のラジオを点けた。カーテンの隙間から見える外は真っ暗で、虫の音以外聞こえず、静まり返ったこの世界にもどこかに起きている人がいるのだな、と安心する。ラジオ放送で流れる曲と人の声に耳を傾けながら、私はいつの間にか眠りについた。

 

ちる

フォームからの投稿

 

弾かれないままになっているピアノが、怒って暴れるという事件が立て続けに起きた。恐ろしくなった人々は、ピアノを逃がした。野に放たれたピアノたちは、草原や山岳に散らばった。四つ足であることから、野生動物ともうまくやっていった。今やピアノたちは、自然の中で思い思いの音楽を奏でている。

 

草野理恵子

@riekopi158

 

部屋の中で鹿が死んだ。これで新しい名前になる。

父と母が鹿を解体している。ビニールを敷いてよと言うと、新しい名前になるからいいと言う。今までのことはどうでも良くて何でもできるようになるんだ。

浸み出した血液に苔が生え部屋が森になった。

古い名前を森に放つ。シダの匂いを濃く感じた。

 

旦悠輔

@DanYusuke

 

自由奔放な女、と言われ続けてきた。女友達にも、友達でない女達にも、もちろん、男にも。その言葉が褒め言葉ではないことはわかっていた。でも私は、生きたいように生きることしかできなかった。いま、ベッドに横たわり、私は思う。この点滴を外して、もう一度自由に外を歩きたい、と。

 

のび。

@meganesense1

 

風が来る。馬は興奮していた。自分もそうだ。もうすぐ一つ目の的が見えるはずだ。外しても良いと誰かに言われた。流鏑馬に女性が参加するだけで十分話題になるからと。そのときは舐めやがってと思ったけれど、もういい。息を吐く。腕は弓に。足は脚に。私は人で弓で馬。的。風が来る。矢を放った。

 

「月々の星々」入選作は雑誌「星々 vol.2」に掲載します。
サイトでは12月31日までの期間限定公開となります。

下記のnoteで応募された全作品を読むことができます。

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