9月のテーマ(第3期上半期)

作中に「実」という文字を入れる

 

募集期間

2022年9月1日〜30日

 

応募総数

333編

 

選考

ほしおさなえ

星々運営スタッフ

 


 

選評

ほしおさなえ

 

九月の文字は「実」。実りの秋。木の実や草の実が目に入る季節になってきました。実は、植物にとっては生命の源。人間にとっても動物にとっても食料となり、命を繋いでくれます。うちの近くは小山が多く、大きなお寺もあるので、都内なのに木々が多いのです。子どもが小さかったころは、秋になると毎日のようにどんぐりをたくさん拾って帰ってきました。虫が出てきてびっくり、なんてこともありましたが、山のような木の実を見るとなぜか懐が豊かになったような気がしてうれしかったのを思い出します。

 

一席ののび。さんの作品に登場するのは知恵の実。でも、賢くなるために使われるのではなく、お酒に漬けて葬式で振る舞われるのです。まずこの設定が秀逸です。死者を弔うという行為は、想像以上に疲れます。心と身体、両方の力を使います。みな死者を思い、少しだけ死の世界に引っ張られ、そうしてまた生き直す。知恵の実とお酒はそのために使われるのです。そういえばお酒もまた穀物や果実から作られたものですね。二席のせらひかりさんの作品は、さわやかな秋の光のようです。抱いていた夢がひとつの実になる。ほかを捨てることで、ひとつの実を大きく育てた。いい匂いがするという言葉に、自分を大切にする心が浮かび上がります。この人はきっとこれからこの実とともに生きていくのでしょう。三席の五十嵐彪太さんの作品は、センリョウの耳飾りを持って生まれた母にまつわる奇譚です。生きているうちは一生を長く感じるけれど、大切にできるものはほんのわずか。それでもいいのです。ほんとうに大切なものと出会い、命を燃やすことができたなら。短い中に人の一生を見るような美しい物語でした。

 

佳作。今村スイさんの作品は、庭の柿の木と、人と、鳥の物語。年月のなかで、鳥たちは次第に代替わりしていくのでしょうか。柿の木からは人もそのようなものとして映っているのかもしれません。庭の中に小さな世界を感じました。葉山みととさんの作品。墓に眠る天邪鬼だった祖父が墓参りを拒んで栗を落としてくるという発想が素敵です。この人の中で祖父はまだ生きているのですね。栗は墓参りを拒んでいるのではなく、道案内をしているつもりなのかもしれません。碧乃そらさんの果物の皮を剥くお話は、あたたかな読後感が残ります。だれかのために手を動かす。その手の記憶が、人を生かしてくれるのかもしれません。荒金史見さんの作品。こちらは実ではなく「真実」の姿にまつわるファンタジーです。猫の真実の姿、しかも悪き面が美しい少女……。ここから物語が始まっていきそうな予感を秘めています。秋助さんの作品は、日常の中で心に流れる思いを鮮やかに描き出します。不特定多数の人たちが行き交う駅。行き場のない一瞬の思いが言葉に封じ込められています。藤和工場さんの作品。長く生きる木の思いを詩的な言葉で繊細に捉えています。芽吹き、花咲き、実る、その繰り返しを続けることへの疲れ。「月は死んだばかり」という言葉が胸に沁みます。夏見有さんの作品は巨峰を育てる人の物語。迫る台風。どうしたって天候次第、でもできるだけ出来の良い葡萄を届けたい。そうした人の思いに、生きるとはそういうことだ、と勇気づけられました。

 


 

入選

 

一席 

 

のび。

@meganesense1

 

知恵の実と呼ばれるその貴重な果物を、現地の人々はみんな酒に漬け込んでしまう。聞けば、そのまま食べると頭が良くなり過ぎてしまうからだと言う。出来の良い知恵の実酒は、主に葬式で盛大に振る舞われる。皆で少しだけ馬鹿になり、明るく死者を弔い、そして来たるべき喪失の痛みに備えるのだ。

 

二席

 

せらひかり

@hswelt

 

夢が実って大人になった。これまでは好きな夢を抱いていたけれど、中から一つを選んだのだ。果実を抱いて、どうかなと語りかける。果実はオレンジにもリンゴにも似ていない。出荷するには時間がかかりそうだし、ずっと値段がつかないかも。それでも磨くといい匂いがする。かじると、季節の味がした。

 

三席

 

五十嵐彪太

@tugihagi_gourd

 

母は耳飾りを持って生まれた。センリョウの実のような小さな赤い飾りだ。耳飾りは、子供の頃は緑色だったらしい。母が恋を知ると色づき、父と出会うと真っ赤になり艶を増した。母の耳飾りは、いつも美しかった。父が亡くなってからは透明になり、今はロッキングチェアで寝る母の耳で静かに揺れている。 

 


 

佳作

 

今村スイ

@tsuduru_0716

 

晩秋、庭の柿の木になった実を収穫するのが我が家の毎年の習いだった。柿の木に登るのは父の役目だ。必ず二つ三つを残すのでどうしてかと尋ねると、鳥のためだと笑った。今年も庭にやって来る鳥を見ながら、君は昔ここに来ていた子の子孫かいと問いかける。もちろん鳥の方から答えがあった試しはない。

 

葉山みとと

@mitotomapo

 

祖父の墓に続く坂に栗の実が転がっている。ぽとんっと落ちては行く手を阻む。蹴飛ばしても勾配に沿って戻ってくる。墓参りを拒んでいるのだろうか。じいちゃんは天の邪鬼だったというが、こちらも負けていないので意地でも参らせてもらう。そういえば栗が頭に落ちたことはない。

 

碧乃そら

@hane_ao22

 

房からちぎり、小さなボウルに山盛りになった葡萄の実。それを縦に四分の一に切り、手で皮を剥き、二枚の小皿に分けて入れていく。次はキウイの皮を包丁で剥く。薄い輪切りを四分の一に切って、同様に二皿に分ける。私は葡萄もキウイも好きじゃない。果物好きな子どものため、皮剥きだけが上手くなる。

 

荒金史見

@af_viz0319

 

真実の姿を映すという単眼鏡を手に入れた。太陽の光を受けた鏡像を覗けばその者の善き面が、月の光を受けたものならその者の悪き面が見られるという。とある月夜、私は飼い猫を鏡の前に座らせる。おやつの盗み食いの場面を期待した私の目に飛び込んできたのは、輝くばかりに美しいひとりの少女だった。

 

秋助

@akisuke0

 

駅には多くの人間性が溢れていた。傘を手すりの内側か外側に掛けるかで思慮深さが窺えるし、エスカレーターに乗る際、後ろが詰まらないように一歩踏み出すかで配慮が試される。人生は決まった道を進むか戻るかしかない。なんて実りのない言い訳をしながら、遮断機が永遠に上がらないことを願っていた。

 

藤和工場

@factouwa

 

雨上がりの風の温度が変わっていく。天気の一息ごとに、季節は死んでいくんだ。秋に熟すものは、夏そこにあり、準備は春、終わっている。長い冬をいくつ越えて、いつか実るものの準備をいつまですればいいんだ。季節ほど、はっきりしていればいいのに。枯れた立木に星が差す、月は死んだばかり。

 

夏見有

@you_natsumi

 

今年の巨峰は出来が良い。実はつややかではりがある。どれだけ丁寧に育ててもいくらかは気候任せであるが、今年は雨量も寒暖差も適切そのものだった。 「種なし皮ごと」が人気な中でも待っていてくれる人がいるから、できるだけ熟れてから収穫したい。天気予報を睨みつける。 今年も台風がやってくる。

 

第3期上半期「月々の星々」入選作は雑誌「星々 vol.3」に掲載します。
サイトでは2023年5月31日までの期間限定公開となります。

下記のnoteで応募された全作品を読むことができます。

これまでの月々の星々

九月 十月 十一月 第1期 第2期