5月のテーマ(第2期)

作中に「歩」という文字を入れる

 

募集期間

2022年5月1日〜31日

 

応募総数

280編

 

選考

ほしおさなえ

星々運営スタッフ

 


 

選評

ほしおさなえ

 

第2期の下半期がはじまりました。

五月の文字は「歩」。作品を読んでいると、新境地をひらかれる方がいたり、あたらしい方の応募があったり、「月々の星々」も毎月少しずつ歩んでいるのを感じます。

 

一席の右近金魚さんの作品。色鮮やかな夢のような世界です。伝えたい主張や気づきがあるというのとは少しちがうのですが、ただただ不思議な世界を垣間見たような気持ちになります。語りにも魅力があり、想像力の翼の力強さが感じられます。人の心は自由なんだ、と目が覚める思いでした。二席の水沢ながるさんの作品は、「歩」を将棋の駒と見立てています。将棋の「歩」が出てくる作品はほかにもいくつか見られ、どれも素敵だったのですが、この作品は「ただの歩だって、敵陣に入って金に成れば、王将を狙える」というルールを憧れの先輩をめぐる恋物語に仕立てたところが見事でした。三席のちるさんの作品には、不思議な味わいと深みがあります。一生懸命がんばっても増えない、なにもしなくても増えることもある万歩計のような機械。なにを測るかわからない機械は、人生そのもののようでもあります。

 

佳作。へいたさんの作品は、クマの子の動きがとてもかわいらしいですね。失敗したら動きたくない。でもやっぱりまた歩き出す。そんな姿にわたしたちも励まされる思いでした。石森みさおさんの作品。「世界中に足跡をつけてきます」という言葉が素敵です。職場に残ることもまた自分で選んだ道。誇りを持って生きるわたしの姿も素敵です。二度なかずさんの作品。語り手がどのような状況なのかわかるようなわからないような。言葉にしきれない「あわい」が美しく描き出されています。COMAOさんの作品は、最後の二文に心を持っていかれました。それが彼女と僕の距離なのか、とリアルな感触が残ります。緋夢灯さんの作品は、最後まで読んでくすっと笑ってしまいました。フロスや歯磨き粉にまで嫉妬する、などの言葉がオチに向かってうまく配置されていて見事です。kikkoさんの作品。フルーチェが好きな神様……。なぜフルーチェなのかわからないですが、想像するとなんだか楽しくなってきます。山口絢子さんの作品は夢の残像がしみじみと胸に染み入ります。ニットの若草色が遠くでいつまでも揺れているようです。

 


 

入選

 

一席 

 

右近金魚

@ukonkingyo

 

 

前から僕は不思議だったんだ。象の歩みの大人達が密かに集うあの店がね。

窓の隙間をのぞく。

銀行屋が背広を脱ぐと仕立て屋は採寸し、一対の翼を肩にあてた。すると男はフラミンゴになり飛び回りだしたんだ。

肉屋はオウムに、花娘は蜂鳥になった。人に戻ると皆飛ぶような足取りで帰っていくのさ。

 

二席

 

水沢ながる

@mizunagaru

 

彼は皆の憧れの先輩、私は地味なその他大勢の女子。対局にいる二人だけど、諦めたくなかった。

「先輩、王手です」

「うわ、やられた。参りました」

先輩が将棋好きだと知った私は必死に将棋を勉強して、先輩と互角に指せるまでになった。

ただの歩だって、敵陣に入って金に成れば、王将を狙えるのよ。

 

三席

 

ちる

フォームからの投稿

 

子供の頃、隣に住んでいた自称発明家のおじいさんから、万歩計のような機械をもらった。振っても数字は増えない。人に優しくしたら増えたときもあったが、変わらなかったときもあった。一日中ごろごろしていたら、すごく増えたこともある。これが一体何を測る機械なのか、大人になった今もわからない。 

 


 

佳作

 

へいた

@heita4th

 

クマの子供が蜂蜜を探していました。木を見るのに夢中です。切り株につまずいてすってんころりん。起き上がりません。

「どうしたの?」

クマの母さんが聞きます。

「僕、起き上がるの嫌だ。また転ぶ。」

「蜂蜜は?」

ぐう、とクマの子供のお腹がなりました。立ち上がります。また、歩き出しました。

 

石森みさお

@330_ishimori

 

世界中に足跡をつけてきます。そう言って旅立った後輩からはたまに絵葉書が届く。その歳で自分探しかと笑う上司に、憤るでもなくかろやかに彼女は去った。どこへ行くも行かぬも本当は自由なのだ。そう思うと、お守りをもらったように心が軽くなる。職場へ向かう一歩が高く響く。選んだ道を歩んでいる。

 

二度なかず

@Futatabi_Nakazu

 

薄くぼやけた春の山ぎわとあかくせり出した夏のゆめとがまじって、わたしにあいまいな季節を意識させた。ぬるい湯のような心地よさにからだを浸して、蓋を開けずに距離をたのしんでいる。どちらかへ、寄せてしまわなくてはいけないと判っている。未満も以上も無い、一歩を踏み出してもつま先は靴の中。

 

COMAO

@ataokoroina

 

家族写真に近況を記した年賀状を送ると彼女は同じような返事を寄越す。もう18年目だ。今年の写真の彼女は病室で夫に付き添われてニット帽の下で笑顔を作っていた。手術を控えているという。学生街を肩を並べて歩いた日々を思い起こす。今隣にいるのは僕じゃない。見舞いはしない。来年も賀状を書く。

 

緋夢灯

@r_d_tomosu

 

久々の友人と再会。

実は新婚で、嫁さんはフロスや歯磨き粉にまで嫉妬するらしい。

惚気かと呆れつつ、誘われるまま新居へ一歩踏み入れば、スリッパも箸も一対だけ。真新しい歯ブラシも、一本しかないから驚きだ。

「この歯ブラシは……。」

まさか共用なのか?!

友人は頬を赤らめ答えた。

「妻さ。」

 

kikko

@38kikko6

 

小さい頃神社で、家出した犬が見つかるよう祈った。犬は戻り、泣いて神様に感謝した夜、夢でお告げを受けた。お布施をよこしな。お金はありません。じゃあ譲歩してフルーチェ。それから毎月フルーチェ作り。いつの間にか器は空になる。今日は月末、きっとたくさんの人が慌ててフルーチェを混ぜている。

 

山口絢子

@sorapoky

 

母の日に連れて行ってもらったお店。一目で心奪われたのは、若草色のニットだ。これだ!と手にした途端、目が覚めた。現実はお好み焼きにビール、という対照的な宴。だがその夜の夢、私はあのニットを着て揚々と歩いていた。夢の続きを見られたという幸福が、もしかしたら贈り物だったのかもしれない。

 

「月々の星々」入選作は雑誌「星々 vol.2」に掲載します。
サイトでは12月31日までの期間限定公開となります。

下記のnoteで応募された全作品を読むことができます。

これまでの月々の星々

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