6月のテーマ(第2期)

作中に「流」という文字を入れる

 

募集期間

2022年6月1日〜30日

 

応募総数

326編

 

選考

ほしおさなえ

星々運営スタッフ

 


 

選評

ほしおさなえ

 

六月の文字は「流」。第1期から参加されていた方のなかには、第2期にはいって「今月の文字」の傾向が変わったことにお気づきの方もいらっしゃるかもしれません。第1期の文字は「海」「風」「野」など、おもに名詞として使われる漢字でした。それに対して、第2期は「結」「解」「放」など、動詞として使われることの多い漢字も入れるようになりました。ものや場所ではなく行為や動作から着想を得る方が増えてきているのかも、と勝手に想像しています。

 

1席の雷田万さんの作品は、「流星そうめん」という着想が秀逸でした。高速で流れてくるそうめんを箸で追う子どもたちの姿を想像すると、ちょっと笑ってしまいます。さらに、その発想にとどまらず、結果、箸の使い方が上手くなり、本人ではなく母の方の願いがかなってしまう、というオチまで着地を伸ばしているところが見事でした。二席の草野理恵子さんの作品。言葉が意味から逃れ、生き物のように躍動する素晴らしい作品です。作者は詩人の方のようですが、この作品は詩とも小説とも言えない、言い方を変えると、詩とも小説とも言える。言葉の奥に秘められたものを掴み取る力に目を見張りました。三席のはぼちゆりさんの作品は、しみじみと心に染みました。そこにいない人と分かち合う時間。わかる人にしかわからない心のやりとりに胸打たれます。

 

佳作。のび。さんの作品。うつくしく構築された幻想の世界。佳作になりましたが、席に入れたいと感じた素晴らしい作品でした。旅人 。さんの作品に登場するのは、ふわふわと空を流れていくそうめん。夏の空気を捉えているところが素敵です。kikkoさんの作品。雲に関する気づきの影に、現実の世界の深い闇があります。痛みをえぐりだす書き方が見事です。富士川三希さんの作品。香りからよみがえってくる記憶。何気ないことなのになぜか心に染みついている。記憶の不思議を感じます。畳さんの作品、「流れに棹さす大会」がユーモラス。情景を淡々と描写する文章に意味を超えた詩情が漂います。旦悠輔さんの作品では「話の流れ」に着目したところに惹かれました。人はときに「意味」でも「内容」でもなく「流れ」で話す。流れこそが大事だったりする。それを破ることには実は深い意味があるのかもしれません。ミイママさんの作品は影のささやかな冒険を描いています。最後に漂ってきた潮の香。人を離れた影がどこに行き、なにを見たのか気になります。

 


 

入選

 

一席 

 

雷田万

@light_10_10000

 

 

息子の学校で「流星そうめん」というものが流行っているらしい。流れてくるスピードの速い流しそうめんらしく、みんな悪戦苦闘しているのだとか。

「掬えたそうめんを食べて願い事をすると願いが叶うんだって」

心なしか、息子の箸の持ち方が正しくなっているように見えた。図らずも母の願いは叶った。

 

二席

 

草野理恵子

@riekopi158

 

女が空高く掲げ持っている物は何だろう。白く長い腸のようにも思える。だが普通そんな物を、リボンのように翻すだろうか。

「何かが終わることを果てしなく思っていると、腸のような物を持つのですよ」

「あなたは誰ですか」

私はそれに口をつける者ですとするすると流れるように飲み込んでしまった。

 

三席

 

はぼちゆり

@habochiyuri0202

 

実家の居酒屋には二人分注文する客がいた、お一人様でだ。そいつはブツブツと独り言を呟くと帰っていく。「気味が悪い」と母に愚痴ると「私は感謝してる」と涙を流す。父の急死から涙脆い。しばらくして母は死んだ。葬儀を終え、店を再開すると例の客が来て、母の大好きだった卵焼きを二人分注文した。 

 


 

佳作

 

のび。

@meganesense1

 

揺らめく蒼光の中に美しい都の姿が逆さまに見えた。町の人々が海色ビー玉と呼ぶその小さくて丸い鉱物は、ある海沿いの町の砂浜にだけ流れ着く。ガラスのように透明ではないが、しかし必ず同じ景色が映る。蒼く静かで逆さまのその場所こそ、自分たちの魂が死後に向かう場所だと町の人々は信じている。

 

旅人 。

@ryoi44

 

朝、窓を開けると、そうめんが晴れ空を舞っていた。小鉢に麺つゆを注いで箸を握り、家を出た。小走りで追いかける。風に流れるそうめんが木の枝に引っかかった。素麺屋のお爺さんが早くも木陰にいて、煙草をふかしている。黙って木に登り、そうめんを切ってくれた。麺を啜りつつ、もう夏だな、と思う。

 

kikko

@38kikko6

 

雲は流れない。雲ができる気象条件が連続して発生しているだけで、同じ雲ではないんです。昨日、お天気お姉さんがそう笑ったので、僕の人生は輪切りになった。昨日の僕と今の僕は偶然似た姿をしてるけど、実は違う人間なんだ。だから平気。盗られた財布も、この僕のものじゃない。明日は学校に行ける。

 

富士川三希

@ataokoroina

 

石鹸のあの香りを嗅ぐとあの光景を思い出します。一緒に何かを作ったのは白和えが最初で最後でしたね。焦げ茶の古い家の、焦げ茶の古い台所で、太陽の光に包まれた丸い背中を思い出します。私は幼すぎであまり記憶もありませんが、あの光景だけはどんなに時が流れても思い出せるのです、おばあちゃん。

 

@tatami_tatami_m

 

「流れに棹さす大会」には多くの出場者が集まっていた。屈強な男らが太い腕や盛り上がった肩を露にして次々に竹もしくは金属もしくはカーボンファイバー製であるらしい棹を川に向かって投擲してゆく。しかし当然、きちんと浮かんで流れてゆくのは竹のみである。竹以外の投擲者はうなだれ、嗚咽している

 

旦悠輔

@DanYusuke

 

こういう流れでする話じゃないと思うんだけど。彼女は言った。別れたほうがいいと思ってるんだよね。ずいぶん曖昧な言いまわしだね、この流れで切り出すにしては。僕は言った。梅仕事は五月のうちに済ませるべきか、六月に入ってから始めるべきか。たしかそんな話をしていたときのことだったと思う。

 

ミイママ

@sorapoky

 

川で涼んでいたら、影だけが流れてしまった。

少し困ったがそのまま過ごし、寝ようとした頃に帰って来た。

あんまり暑いからつい、と詫びるので、いつも熱したフライパンの様な道路にいるのだから、逃げたい気も分かる。仕方ないと許した。

常夜灯の下、足元の影からは、微かに潮の匂いがした。

 

「月々の星々」入選作は雑誌「星々 vol.2」に掲載します。
サイトでは12月31日までの期間限定公開となります。

下記のnoteで応募された全作品を読むことができます。

これまでの月々の星々

五月 六月 第1期 第2期(上半期)