11月のテーマ(第3期上半期)

作中に「保」という文字を入れる

 

募集期間

2022年11月1日〜30日

 

応募総数

441編

 

選考

ほしおさなえ

星々運営スタッフ

 


 

選評

ほしおさなえ

 

コンテストに応募される方の人数も増え、作品の幅も広がってきました。今回は、このコンテストで求めるものがなにかについて考えてみました。

わたしは十年ほど自分の140字小説を名刺サイズの活版カードにする活動を続けてきて、いまはそれを本の形にまとめようとしています。最近、そうした活動について「SNSで発表するときと印刷するときとでは言葉の質が違うのではないか、Twitterで発表したものを印刷するとき、表現を変えなくても良いのか」という質問を受けました。少し考えたのですが「日常のつぶやきや告知ではSNS的な言葉の出し方をするけれど、140字小説は作品として考えているので、最初から印刷する文章と同じ発想で考えています」とお答えしました。

そして、このコンテストについても同じ基準で選んでいるのだ、と気づきました。SNSは流れていくものです。それが良さでもありますが、このコンテストでは、もう少し長く人の手元に残したいものを選んでいるのだと思います。

 

一席の武川蔓緒さんの作品。不条理小説を思わせる作品です。犬とはなんでしょう。なぜ小さくなるのでしょう。なぜ放せないのでしょう。夕闇であることも、瓦礫が続いていることも、犬を放せないこととどう結びついているのか理屈ではわかりません。なのになぜか胸にすとんと落ちるのです。そこに突如現れる犬の眼と鼻にはリアルな手触りがあり、ひっそりとした悲しみの匂いを感じさせます。二席の冨原睦菜さんの作品。家の中で、冷蔵庫というのは不思議な存在です。その家の人々が食べるものが収められていますが、普段は闇に包まれ、開けた瞬間だけ中のものが照らされる。得体の知れないものがあってもちっともおかしくない。「秘密」と書かれた保存容器には、人の不思議が封じ込められているようです。三席のへいたさんの作品。人はみな、自分の人生を歩みます。なかなか自分の思い通りにはならないものですが、一歩ずつ進んでいくしかない。バランスを取ろうとする心のありようをうまく描き出しています。

 

佳作。彩湖あにぃさんの作品。感情を視覚的にあらわした軽やかな作品です。最後の「賑やかで孤独」という表現にきらめきを感じました。石森みさおさんの作品。仔猫の様子を記す言葉がおだやかで魅力的です。十五年という月日の中で人も猫も歳を取り、関係も深まっていく。「うんととろくさくていいよ」という言葉にやさしさが詰まっています。のび。さんの作品は、神と人との契約をテーマに民話のような雰囲気をうまく出しています。井戸という異界への通路を思わせるアイテムを使ったところも見事です。富士川三希さんの作品。日常の一コマを描いた作品ですが、生きていく苦しさを正確に写しとっています。どの文も作者が自分の手で掴み取ったもので構成されていて、「筆を執り、自分を保つ」という表現もあざやかでした。二度なかずさんの作品。店に並ぶ保存容器たちの姿が秀逸です。箱、缶、瓶。わたしも好きでつい集めてしまうのですが、容器というものには、それ自体に人を惹きつける力があるようです。MEGANEさんの作品。引きこもりの私と、怪我をした星の小さな物語。こうした小さな思い出が人の心を形作っていくのでしょう。あめさんの作品。形のない液体であるはずの水の深層に別の存在が宿っている。この発見に瞠目しました。今後も新しい世界を切り開いていってほしいです。

 


 

入選

 

一席 

 

武川蔓緒

@tsurutsuruo

 

犬が小さくなってゆく。ハンドバッグにいれ散歩にゆく。船に乗っても、島に着いても、空は夕闇の儘で、道は瓦礫が続くばかりで、犬を放せない。ホテルに泊る。私だけらしく、客室フロアに光はない。犬をバッグから出し。眼と鼻の三角の星座とともに廊下を駈ける。常備灯が保つ迄。犬が消えてしまう迄。

 

二席

 

冨原睦菜

@kachirinfactory

 

冷蔵庫の保存容器は、妻がそれぞれの中身をメモ書きしてある。「茹でほうれん草」「苺ジャム」「豚の角煮」「ひじき」。その中に「秘密」というものがある。試しに開けようとしたが、背後から「それは秘密よ」とゾッとするような声で囁かれて以来、俺は冷蔵庫を開けても、それは見ないようにしている。

 

三席

 

へいた

@heita4th

 

インタビュー記事を見るとつい年齢を確認してしまうようになった。何歳にあれをやり、何歳にこれをもらう。その『何歳』を自分がどんどん追い越していく。ぱちんと音が鳴って顔をあげる。お湯が沸いた。お茶を入れる。お茶なら上手にいれられる。そうして、バランスを保つ。何もできないままの自分の。

 


 

佳作

 

彩湖あにぃ

@ayako_annie

 

喜怒哀楽。倉庫には、ヒト、という生物の感情が保管されていた。怒りはよく檻を突き破って逃げ出すので大変だ。悲しみが地面付近で動かない時は、喜びをふりかけてふわんと浮き上がらせる。

これらを一つの体に同居させていたなんて。彼らが住んでいた地球は、さぞ賑やかで、孤独な星だったのだろう。

 

石森みさお

@330_ishimori

 

家の軒下で保護した仔猫は、何かにつけてとろくさい子だった。ご飯を食べるのも、遊ぶのも、とろとろと眠そうに目を細めてのんびりのんびり、何をしても日向ぼっこのようにのどかだった。十五年と少し、彼はそんな風にとろとろ生きて、もう、後はうんととろくさくていいよ、と家族の誰もが思っている。

  

のび。

@meganesense1

 

韮崎家の井戸には神がいる。神は時々「まだ?」と聞く。家の者は「まだ」と答える。問いの答えを保留にしているのだ。その問いを知る者はもういないが「まだ」と答える限り家は安泰だと伝わってきた。何百年と韮崎家は栄えたが、ある時の当主が酒に酔い「いいよ」と答えた途端、人も家も消え去った。

 

富士川三希

@f9bV01jKvyQTpOG

 

夕方になると決まって熱を出す。子どもが乗る自転車のタイヤがカラカラと啼く。腹を見せながら通過する飛行機がごおぉと唸る。近所の完成間近のアパートが身を削られたように叫ぶ。開けた窓から音が雪崩れ込んできて思考する頭を押さえつけるが、また筆を執り綴り始める。こうして日々を保っている。

 

二度なかず

@Futatabi_Nakazu

 

保存容器の店だった。西陽が棚にぎっしりの硝子、琺瑯、アルミや何かに反射して、つるりと光ったのが私の目を焼いた。ああ、これなんて素敵だけれどいったい何を入れたものかな。店主は白い髭を撫でつけ、では容器のための容器を買ったらよろしいと、算盤を弾いた。翌日から、私は容器屋の主となった。

 

MEGANE

@MEGANE80418606

 

 

三か月前、引きこもりの私が怪我をした星を保護するなんて、と不安だった。けれど、今夜、星は夜空に帰っていく。朝の光を浴びるため、毎日近所を歩いたことも、空に浮かぶ体力をつけるため、公園で共に運動をしたことも、夜、ホットココアに金平糖を浮かべて一緒に飲んだことも、全部全部忘れないよ。

 

あめ

@QzJe8ZdUJCy9Miw

 

冬の水を触る時、骨があった。「あれ?何の生き物だろう。」と私の両手は水の存在のカーテンを開く。すると龍の様な骨がギッシリ詰まっている。保持されていく冷たさは、この骨が正体だったと思え、それから私は水を飲む時、良く噛んで飲むようにしている。水は肌に当たると龍が這った様に赤くなった。

 

第3期上半期「月々の星々」入選作は雑誌「星々 vol.3」に掲載します。
サイトでは2023年5月31日までの期間限定公開となります。

下記のnoteで応募された全作品を読むことができます。

これまでの月々の星々

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