10月のテーマ(第3期上半期)

作中に「着」という文字を入れる

 

募集期間

2022年10月1日〜31日

 

応募総数

425編

 

選考

ほしおさなえ

星々運営スタッフ

 


 

選評

ほしおさなえ

 

十月の文字は「着」。「着る」と「着く」、ふたつの意味に使われる面白い文字です。小学生のころは、意味が違うのにどうして同じ字を使うんだろう、と不思議でした。「着る」の意味、「着く」の意味、「愛着」や「執着」などの熟語と、集まった作品にも幅があって、ひとつの文字から広がる世界を楽しむことができました。

 

一席ののび。さんの作品。「船」というのがなんの船なのかわからないまま物語が始まります。後半になって、それが死者の乗る「船」だとわかる。そのあたりで落とす作品はときどき見られますが、この作品の素晴らしさは、最後の一文にあります。「船はわざと遅れてくる」。船を動かす存在の、気まぐれかもしれない優しさ。それを描いたことで、この世界に奥行きが生まれているのです。二席のあめさんの作品は、独特の世界観が魅力的でした。埋立地に住んでいる魚の顔に似た人々。なにかを象徴しているようで、象徴しているものが何かはわからない。物語のなまなましい手触りだけが読者の中に残される。言葉と感覚が強く結びついた秀作でした。三席の御二兎レシロさんの作品。短く切り取られた一コマの中に人生のほろ苦さが詰まっています。人を律するなにかが失われたあとにはじめて見える心情。思い通りにならない人生を包み込むような作品でした。

 

佳作。富永夏海さんの作品。幻想的で美しい風景が目の前に広がります。架空の物語ですが、緻密な言葉で紡がれ、緩みがありません。それがこの世界を確かなものにしています。旅人 。さんの作品。空白に名前を付ける行為を描くことで、忘却と忘れることのできない存在を浮き上がらせます。人はこのような空白たちとともに生きているのかもしれません。へいたさんの作品には、何気ない、しかし何にも変えがたい穏やかなときが描かれています。目的はいらない。ともに歩いた時間こそが宝物なのでしょう。橘しのぶさんの作品は寓話のような世界。最後の「立方体じゃなくて」に状況に距離を取る知性と、軽やかなユーモアを感じました。浅葱佑さんの作品は硬質で透明感のあるファンタジー。完璧でないものを愛する少年の姿が魅力的です。雪菜冷さんの作品。蒲公英の綿毛を飛ばしながら、日々の閉塞感を束の間解放する。行き場のない思いに胸が苦しくなります。武川蔓緒さんの作品はSFの風味が漂う少し不思議な作品。見知らぬ世界につながるクローゼットから未来に行く私。乾いた筆致が作品世界によく合っていました。

 


 

入選

 

一席 

 

のび。

@meganesense1

 

船の到着が遅れているので、家に戻ることにした。薄暗い家では妻が疲れた顔で座っていた。そこへ息子がやってきてドカッと座ると、ビールをグラスに注ぎ、体を震わせ泣き始めた。死んだ私にできることは何も無かったが、家族の側に座り、彼らの幸福を願った。船はわざと遅れてくるのだと後から聞いた。

 

二席

 

あめ

@QzJe8ZdUJCy9Miw

 

埋めたて地に住んでいる。かつて海だった土地で生活するこの町人は、皆が魚の顔に似ている。そして、口をパクパクさせて何かに執着して生きている。朝は水槽みたいな電車に乗って通勤する。水槽内は満員で酸素が不足する。毎日何人か死ぬ。死んで天使になった魚は飛び魚になって、海に還ると言う噂だ。

 

三席

 

御二兎レシロ

@hakushi_tsutan

 

「ねえホラ、良いシャツでしょう」着古したよれよれのそれを笑顔で自慢する父を前に、涙が出た。あれだけ身嗜みに気を遣っていた厳格な父はもういないのだ。そしてその記憶の中に、ダメ男と駆け落ちした親不孝者ももういないのだ。父は嬉しそうに続ける。「ウチの娘がね、父の日に買ってくれたんです」

 


 

佳作

 

富永夏海

フォームからの投稿

 

着水すると同時に水そのものになる。水雁はそのようなありようで知られる。秋口になるとざあっと彗星のようにやってきて湖面に降りたち、翌日たしかに水位はあがっている。この水が凍るとそれはまったく冷たくないという。農夫たちはこれを積みあげその年の納屋を作る。そして燃える果実を並べるのだ。

 

旅人 。

@ryoi44

 

夜、見つけた空白は愛着のあったクマの人形の形をしていた。私は空白を「ぺ」と名付けた。「ぺ」には温もりがなくて、抱いていると涙が出た。朝、目覚めると「ぺ」は眠っていて、私は歯を磨きながら人形の名前を思い出そうとした。見つからない。鏡の端で「ぺ」が笑う。歯磨き粉が甘苦くて悲しかった。

 

へいた

@heita4th

 

ナマケモノが隣の森の友達に会いに行くことにしました。大事な用があったのです。住処の木を降りるだけで半日。隣の森まで一週間。目的地に着く頃には用事をすっかり忘れていました。「着いたよ」ナマケモノが言います「着いたね」友達も言いました。それから2人で同じ木で眠りました。いい夜でした。

 

橘しのぶ

@kirainarasatte

 

立方体が置き配されていた。中に入ったらサイコロみたいに転がりはじめた。ラッシュ時の人混みをくぐって一心に転がる。誰かの足にしょっちゅうぶつかるけれども誰も気がつかない。みんな何処へ行こうとしているのだろう。僕は何処へ行き着くのだろう。転がるなら球体が良かったな。立方体じゃなくて。

 

浅葱佑

@telra12

 

星採りの少年たちは流れ着いた星の欠片をその場で品定めし家に持ち帰る。その少年は胡坐の上にぼろ布を敷き、気に入った星を並べて月に透かした。欠けがある、純度が低いと舌打ちされるような星たちを、彼は今日も大切に撫ぜて。宝玉の輝きを放つ星たちを踏みしだき少年は家路を辿った。芝生に光の尾。

 

雪菜冷

@setsuna_rei_

 

フーっと息を吹きかければ一塊だった種はばらけ空へと高く舞い上がる。時に頼りなく時に悠然と、白い綿毛は風の吹くままに旅路を行く。一方私は──。震えるスマホ。着信履歴は上から下まで母。漏れ出るため息。手近な蒲公英をもう一本摘み取る。この風が未来まで届くことを願い大きく息を吸い込んだ。

 

武川蔓緒

@tsurutsuruo

 

衣替え。さして好まぬ紫の服が何故か着たく、クローゼットにはいる。いつの物やらコンビニの弁当が出てきた。腐っておらず米が野菜が艶めき。ここは時をとめている。いつの人やら昔の男も現れ、服を着る筈が裸になり。男が去り私は弁当をたべ、やっと見つけた紫のボレロとショールを纏い、未来へゆく。

 

第3期上半期「月々の星々」入選作は雑誌「星々 vol.3」に掲載します。
サイトでは2023年5月31日までの期間限定公開となります。

下記のnoteで応募された全作品を読むことができます。

これまでの月々の星々

九月 十月 十一月 第1期 第2期